II-68号 2013.12.16発行

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群大ノ未来ツクル
新しい現実 新しい挑戦
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【目次】大学改革の名のもとに群大の教職員給与は5%引き上げるべき?財務諸表からみた群馬大教職員の給与労働条件をめぐる法制度はどうなっているのかアベノミクと企業化される大学教育文化部コラム 群大重点配分4.1億円はすばらしいニュースか?
新春の榛名山

(組合バスツアー2013年11月:りんご狩りの様子)

大学改革の名のもとに
― 社会情報学部定員不補充の問題に関して ―

荒木詳二(中央執行委員長/社会情報学部)


先の「ぐんだいタウン」でも書きましたが,現在医学部医学科を除いた各学部は教員の補充を大学上層部よりストップされています。中でも社会情報学部は教員定員33名中5名の補充を止められて,学部は発足以来最大の危機の中にあります。教員の不足の弊害は学生指導に最もよく現れています。教養を身につけ,専門知識を学ぶため大いに希望を持って入学してきた学生に対し,3年生から始まるゼミの選択幅を大いに狭め,4年生の卒業研究指導にも大きな影響がでている状況は,社会情報学部教員一同誠に申し訳ない気持ちでいっぱいです。同時に補充をストップする現在の状況に対し激しい怒りを禁じえません。教員配置の再編成など将来構想の為には,現在学んでいる学生は貧乏籤を引けというのでしょうか。現在学んでいる学生の視点からの現状改革が切に望まれるところです。教育の現場のミッションの再定義という教育政策推進の陰で,教員の補充不足に伴う研究・教育のレベルの急激な低下は否定できません。

社会情報学部で5名の人事がストップしている分野は以下の通りです。心理学,政治学,理論経済学,さらに来年退職予定の2名分。2名分については社会情報学及び情報行動論,情報社会論という社会情報学部にとっては欠くことのできない必須科目を担当する教員の採用を予定しています。国立で唯一の社会情報学部は,今では100近い数の社会情報学部の先頭に立って,新しい学問である社会情報学の確立に努めているところです。こうした状況の中で急ブレーキをかけられているのが現状です。

公務員削減の数合わせといわれた国立大学の法人化以来,学部の自治特に人事権が大幅に奪われたことは,多くの大学人にとって残念至極なことです。学長のリーダーシップのもとでの大学改革,英米大学偏重の世界のトップ100を目指す大学改革がマスコミなどを通じて声高に叫ばれる昨今ですが,大学の自治,学部の自治を破壊してまで強行した大学改革の目標とはなんでしょうか。大学・学部の自治権剥奪と大学の研究・教育水準の劣化が並行関係にあることは歴史の教えるところではないでしょか。こうした大学改革の名のもとに行われる改悪に対して,口をつぐんで考えることをやめることはあってはなりません。高名な政治哲学者ハンナ・アーレントによれば,考えることをやめ,組織の命令に盲従する「悪の凡庸さ」こそがナチスの本質的な罪であります。

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群大の教職員給与は5%引き上げるべき?

櫻井浩(書記長/理工学部)

地域手当(寒冷地手当を含む)が増えると年収は増える

図

図1 地域手当と平均給与の関連

昨年の「ぐんだいタウン」(U-63号 2012. 10. 9発行)では群馬大学と近隣の国立大学の平均給与を示し,群馬大学の教員の平均給与が低く国立大学86法人中75位で下位15%程度であることを指摘しました。これに対して地域手当(寒冷地手当を含む。以下地域手当)の影響との指摘がありましたので,地域手当と平均給与の関連を検討しました。結果を図1に示します。指摘の通り地域手当の増加に伴い年収も増加し,図に示すように回帰直線で近似することができます。

群馬大学の教職員の給与は5%ほど低い〜負の地域手当(−2.2%)が支給されている?

この直線は地域手当の影響を考慮した期待値と考えることができます。そこで,近隣の大学および後ほどとりあげられるグループGの6大学と比較しました。結果を表1に示します。他の大学と比較すると,群馬大学の教員の平均給与は期待値に比べて5.3%低く,他大学に比べて特に低いことがわかります。

なお,この直線から,地域手当0%では8,174千円となりますが,群馬大学の教員平均給与はその値を下回り,「負の地域手当(−2.2%)」を支給されていることになります。


表1 教員の平均年収(2011年)
平均年収(千円)期待値(千円)両者の差(%)
埼玉大学9,2979,246 0.6
茨城大学9,2968,531 9.0
宇都宮大学8,8158,710 1.2
新潟大学8,1488,174−0.3
群馬大学7,9938,442−5.3
弘前大学8,1608,174−0.2
秋田大学7,9408,174−2.9
山形大学8,2408,174 0.8
山梨大学7,9208,353−5.2
信州大学8,3108,406−1.1

人件費が低い理由は低い入試手当と人事院基準以下の手当?

後述するように群馬大学の人件費は他大学に比較して10億円程度低いことが指摘されています。他大学に比べて低い入試手当,人事院基準以下の病院の手当など(「ぐんだいタウン」U-63号 2012. 10. 9発行をご参照ください)も原因と推測できます。

学長,理事の給与はやや高い?

なお,表2,3に学長・理事について同様の解析をした結果を示します。後ほどとりあげられるグループGの6大学と比較すると,その平均程度またはやや低いといえるかもしれません。近隣の大学も含めると,むしろやや期待値より高い(3%)といえるかもしれません。


表2 学長の平均年収(2012年)
平均年収(千円)期待値(千円)両者の差(%)
埼玉大学16,48617,576−6.2
茨城大学15,59316,141−3.4
宇都宮大学15,51216,499−6.0
新潟大学16,55115,423 7.3
群馬大学16,49615,961 3.4
弘前大学15,64915,423 1.5
秋田大学16,12215,423 4.5
山形大学16,09815,423 4.4
山梨大学 ? 
信州大学14,92315,889−6.1

表3 理事の平均年収(2012年)
平均年収(千円)期待値(千円)両者の差(%)
埼玉大学13,42113,732−2.3
茨城大学12,75712,435 2.6
宇都宮大学12,41512,760−2.7
新潟大学11,90411,787 1.0
群馬大学12,65012,273 3.1
弘前大学10,49411,787−11.0
秋田大学12,10711,787 2.7
山形大学12,87811,787 9.3
山梨大学 ? 
信州大学12,47312,208 2.2

このような実態では,給与の臨時引き下げ措置は到底認められません。群馬大学教職員組合は群馬大学の将来のために,優秀な人材の流出をふせぐべく,給与の臨時引き下げ措置を撤回し,さらに給与の引き上げを求めていきます。

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財務諸表からみた群馬大学教職員の給与

新井康平(荒牧支部/社会情報学部)

今回,社会情報学部の荒木先生よりの「群馬大学の財務分析をしてほしい」という連絡を受けて,ごく簡単ではあるのですが分析結果を報告させていただきます。荒木先生には,「久々に会計学の教員が赴任したし,とりあえずヨロシク!」というザックリした感じでお願いをされています。よって,今回の分析には特定のテーマに絞った分析であるというよりは,群馬大学の財務の全体像を描き出すことを目的にしています。ちなみに,組合にとって有利・不利な結果であろうと,分析結果は結果ですので気にせず報告させていただきます。

ただし,財務分析固有の問題点はついてまわるため,それについては,どうしても最初に注意喚起しておかねばならないでしょう。まず,財務分析は過去の分析であるという点は重要な限界です。過去を分析し未来を予測するという行為には,必ず限界が伴うことはご理解いただけると思います。また,財務分析は「平均」の分析である点にも注意が必要です。他のよく似た大学と比べて,相対的にどうなのか,ということが主たる議論の内容となります。そのため,他大学と異なる戦略をとり,戦略的な資源配分などを行っている場合などでも,それは単なる異常値としてのみ算出されるということです。さらには,よく似た状況の大学が他にないなどの,平均そのものが使えない状況でも,財務分析はほぼ無力です。

群馬大学はGグループ(中規模病院有大学)という分類

というわけで実際に分析を行いましょう。まずは群馬大学とよく似た大学を選ぶことからはじめなければなりません。今回は,文部科学省科学技術政策研究所第1調査研究グループ(2008)*1を参考にサンプリングしています。彼らは国立大学法人をその財務基盤などから8グループに分類しています。我が群馬大学はGグループ(中規模病院有大学)という分類です。当該グループに所属する大学は25大学ありますが,東北関東甲信越に所在する,弘前大学,秋田大学,山形大学,群馬大学,山梨大学,信州大学の7大学にしぼって議論を進めていきましょう。研究費と時間があれば全サンプル分析できたのですが…*2。また,山梨大学のみ最新の財務諸表の公開がなされていないため,弘前大学,秋田大学,山形大学,群馬大学,信州大学の6大学のデータにもとづいて分析していくことになりました。なお,データは年度の異常値の影響を減らすため22年度から24年度の会計年度の値を平均したものを用いています。

単回帰モデルで群馬大学とGグループ(中規模病院有大学)を比較

では,どのような財務分析をしていけばよいのでしょうか。紙幅の関係で,特に今回は収入と支出の関係に絞って議論していきましょう。群馬大学の支出行動が平均的なのか平均から乖離しているのかを突き止めることが主たる目的ですね。方法は,単回帰による残差分析をとります。つまり,ある支出Yと収入Xを,Y=A+B*Xという一次の簡単な関係で近似しAとBを推定し,群馬大学の実績値がこの単回帰モデルからどれだけかけ離れているのかを残差の値を確認して議論していく,というスタイルをとります。分析対象となる支出は教育経費,研究経費,役員人件費,教員人件費,職員人件費です。

他大学に比べて教育経費は1億3千万円高い

1つ目の分析対象となる費用は「教育経費」です。正課教育や各種試験,入卒業式,さらには学生のための保険サービスなどに支出される経費です。教育経費の特徴は,基本的に学生のための支出であるという点でしょう。そのため,学生からの得られる収入とのバランスが重視されます。ここでは,経常収益のうち,授業料収益,入学金収益,検定料収益,施設費収益,運営費交付金収益の合計額を説明変数,教育経費を被説明変数とした単回帰分析(n=6)を実施し,大まかに支出と収入の関係を捉えましょう。結果は,定数項は有意ではなく,収入の係数が1%水準で有意でした(自由度調整済み決定係数は0.968)。係数の値は0.125であることから,これら収入が1円増えると教育経費の支出額は0.125円増えるという関係があると言えます。しかしながら,群馬大学は他の5大学に比べると,この関係から大いに逸脱していました。具体的には,モデルが予測する教育経費の支出額よりも実額が約1億7千万円少ないという結果が得られました。かなりの異常値と言えます。実際に,他大学の残差はいずれも千万円台です。もっとも,この結果は説明変数から「運営費交付金収益」を取り除くと,かなり様相が変わってきます。運営費交付金収益は,今後減らされることが予想されているため,運営費交付金収益を除いた収入との関係をみていくことも有効でしょう。結果は,定数項は有意ではなく,収入の係数は0.274であり1%水準で有意でした。残差を確認すると,今度は群馬大学が1億3千万円もモデルの予測よりも高い教育経費の支出を行っていたこととのことです。これらの結果から,群馬大学は,弘前大学のような他大学よりも,運営費交付金が減額された場合の教育経費への影響が,相対的に大きいことが伺えます。というのも,授業料収入などに対する運営費交付金の比率が,他大学よりも相対的に大きいからです。

研究経費に分厚い配分

2つ目の分析対象となる費用は「研究経費」です。文字通り研究に要する経費のことです。研究は全体的な活動ですので,説明変数としては全ての収入である経常収支合計を用います。また,経常収支から運営費交付金収益を差し引いたものでも分析を行っています。詳細は省略しますが,結果は,どちらの場合でも群馬大学の残差が他大学よりも大きく,いずれもモデルの予測よりも大きい配分を行っていることが示されました。群馬大学は相対的に研究経費に分厚い配分を行っていることがみてとれます。

3つ目の費用は「役員人件費」です。実は,役員人件費のみ,収支項目と支出が相関しているとはいえないものでした。そのため,回帰分析による結果は省略しますが,平均的には,群馬大学は他大学よりも低い割合での支出となっていました。

他大学に比べて教員人件費で10億円,職員人件費で2億円少ない

4つ目の分析対象となる費用は「教員人件費」です。これも経常収益の合計を説明変数とする単回帰分析を実施してみましょう。係数は0.219であり5%水準で有意でした。ここでも群馬大学はかなり大きな残差をみせています。具体的にはモデルが予測するよりも実際は10億円も少ない値となっていました。私の給与の手取り額が21万円台なのも納得の結果です。この傾向は,運営費交付金収益を差し引いた場合でも同様です。もちろん,人件費は平均単価×人数ですので,収益のわりには教員が少ない場合などもこのような結果が出ます。現在,各大学で教員数の信用できるデータを取れないため,単価が安いからなのか,教員数が少ないからなのかの判断は出来ないのが実情です。いずれにせよ,経常収益に対して相対的に教員人件費が低いというのが群馬大学の特徴なのは間違いないものと思われます。

5つ目の「職員人件費」についても教員人件費と全く同様の傾向がみてとれます。しかも,この場合,モデルの予測よりも2億円以上低い金額となっています。詳細は省略しますが,これも経常収益合計をみても運営費交付金収益を除いた場合でも同様でした。

群馬大学の支出行動は高い比率の教育経費・研究経費,低い比率の人件費

以上の分析から,群馬大学の支出行動の特徴が明らかとなりました。それは,高い比率の教育経費と研究経費,低い比率の人件費(役員,教員,職員)というものです。このような結果が良い悪いということではないので,注意してください。少なくとも,このような傾向がみられるということと,群馬大学の方針と照らしあわせて議論をする必要があるでしょう。特に教員数や職員数,役員数といった信頼出来るデータが手に入るとすると,かなり議論が進展しますし,労使の利害関係の調整にも役立つ分析が可能かと思われます。

なお,今回はグルーピングが良くない,という可能性も残っています。異常値が頻出したのは,群馬大学の行動が特異だからというよりは,単に比較対象が間違っているという可能性もあるでしょう。今後は,財務情報以外の情報(教員数など)や適切な比較対象の選定で,より意味のある分析が可能かと思われます。


*1 http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/mat150j/pdf/mat150j.pdf (2013/10/15確認)。

*2 今回のデータの整備には,社会情報学部3年生の野口さん,齊藤さん,齊間さんにお手伝いいただきました。記して感謝します。

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労働条件をめぐる法制度はどうなっているのか

斎藤周(荒牧支部/教育学部)

1 労働条件は,労働契約で決まる

賃金・労働時間などの労働条件は,労働契約によって決まります。この労働契約というのは,言い換えると労働者と使用者との合意です。合意=契約は法的な拘束力を持ちます。約束は守らなければならない,というわけです。

ところが,労働契約という合意は,労働者にとっては真意に基づくものではないことが一般的です。労働者は立場が弱く,「賃金が低い」,「労働時間が長い」など,労働条件に不満があったとしても,雇われないと収入が得られないので,しぶしぶ契約を結びます。そこで,労働者の立場を使用者と対等なところまで押し上げ,労働契約が労働者の真意に基づく合意となるように,労働組合があり,労働基準法等の法律があります(憲法28条,27条1項参照)。

2 就業規則が,大きな意味をもつ

さて,労働者が働き始めるとき,使用者と個別に交渉して労働条件を決めることは,あまり多くありません。使用者がその職場でのルールを定めた文書を労働者に示して,労働者がそれを受け入れる,というのが一般的です。この「その職場でのルールを定めた文書」が就業規則です。

就業規則は,使用者が作成・変更します。使用者は,作成・変更に際して,過半数組合(または過半数代表者)の意見を聴く必要がありますが,意見を取り入れる義務はありません。就業規則はこのように使用者が一方的に作るものなのに,就業規則の定める労働条件は,合理的なものであれば労働契約の内容となってしまいます(労働契約法7条)。

3 労働条件の安易な引き下げは,認められない

使用者は,就業規則を変更することで労働条件を変更します。労働契約法は,使用者が就業規則変更によって一方的に労働条件を引き下げることを〈原則として〉認めていません。けれども,就業規則の変更が合理的なものならば労働条件を引き下げられる,という例外が認められています。国立大学での賃金・退職金の引き下げも,就業規則の変更の形で強行されました。現在,いくつかの国立大学の教職員が裁判を起こしていますが,裁判所が引き下げを「合理的」と判断するかどうかが結論を左右します。

合理的かどうかは,「労働者の受ける不利益の程度,労働条件の変更の必要性,変更後の就業規則の内容の相当性,労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして」判断されます(10条)。つまり,裁判所は,労働者が被る不利益等と引き下げの必要性・相当性とを天秤にかけて判断することになります。

これまでの最高裁判例をみると,賃金・退職金の引き下げについては,就業規則の変更が「高度の必要性に基づいた合理的な内容のもの」であってはじめて有効とされています(みちのく銀行事件・最高裁2000年9月7日判決)*3。安易な引き下げは認められません。


*3 みちのく銀行事件とは,少数組合の同意を得ないまま実施した就業規則の変更に伴う賃金減額に対して,「高度の必要性に基づいた合理的な内容であるということはできないので,賃金減額は無効」とした判決です。

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アベノミクスと企業化される大学

山田博文(荒牧支部/教育学部)

定年間際の教員のつれづれの独り言におつきあい下さい。

「世界で一番,企業が活躍しやすい国」づくりを公約した安倍政権とその政策(アベノミクス)は,多方面で深刻な問題を引き起こしています。大学とて例外ではありません。目前の企業利益と商品化に直結する研究と教育が優先され,大学の根幹に関わる分野は切り捨てられます。

予算配分のあり方は,その国の社会のあり方を映し出す鏡です。日本の文教予算は,他国と比較して,どのような特徴を映し出しているのでしょうか。

わが国の文教予算は,「先進国クラブ」とよばれるOECD30数カ国の中でも劣悪な地位にあります。私的部門は高等教育の費用全体の65.6%を負担し,これはOECD平均の31.6%の2倍以上です。家計支出は高等教育に対する私費負担全体のうち79%を占めています。教育機関に対する公的支出のGDP比は,OECD加盟国のなかで最も低く,OECD平均が5.4%であるのに,日本は3.6%にすぎません(OECD図表で見る教育データ2013年版)。

少ない予算で大学が運営されると,大学の授業料がドイツ・フランスのように無料化の国と比較して,「教育の機会均等」(教育基本法第3条)の原則は実質的に踏みにじられ,学生もバイトに追いかけられます。文教予算の内訳も,企業利益と商品化に役立つように誘導されるので,教育内容は,現場で役立つ即戦力と現場体験が優先され,「平和で民主的な国家及び社会の形成者」を育成する本来の「教育の目的」(同法第1条)が損なわれます。

研究面では,基礎研究が切り捨てられます。そのうえ,かりに最先端の研究成果をあげても,研究者個人がそれを自由に学会で発表することは禁じられます。研究資金を提供したスポンサー企業の利益を損ない,「企業秘密」に抵触するからです。

大学の教職員にも,企業の論理が適用され,業績主義・成果主義が強要されます。教員の場合,手っ取り早く成果を上げるために,小さなテーマとすぐに結果が出るような研究が優先されるようになります。職員なら,いつも上司の評価を気にかけるようになり,国立大学では文科省に目を向けた大学経営が行われます。要するに大学の自治は破壊されます。

いま,日本の大学人と国民に問われているのは,アベノミクスという市場原理主義によって企業化される大学ではなく,文教予算を増額しつつ,本来の教育と研究を探求する大学を実現することのようです ―― といったことが,つれづれなるままに,パソコンにむかひて,心にうつりゆくよしなし事の1つになっています。

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教育文化コラム 群大重点配分4.1億円はすばらしいニュースか?

朝倉葉(教育文化部)

一律平等からアメと鞭へ

文科省概算要求書より
◇群馬 4.1億円 全学教員ポストを学長のリーダーシップで再配置可能な組織としたうえで,重粒子線治療の強みを活かした総合腫瘍学と内分泌代謝学に関する教育研究拠点を海外研究機関から研究者を招聘して形成。群馬大学未来先端研究イニシアティブ各構想において,年俸制など人事給与システムの弾力化を推進

「朝日新聞」2013年10月11日付の記事「交付金,18国立大に重点 改革構想に応じて差 ― 国立大学の改革を加速させようと,文部科学省は来年度から,国立大への運営費交付金を18大学に重点的に配分する。これまで運営費交付金は学生数や規模などに応じて全国立大にほぼ機械的に振り分けられてきていて,一部とはいえ,限られた大学だけに政策的に配られるのは初めてだ」をみて喜ばれた方も多いことかとおもいます。

この重点的な支援は,文科省の説明によれば,「年俸制などの積極的導入,人事給与システムの弾力化,高額な年俸を提示で優秀な外国人研究者の獲得,大学の国際競争力の向上,退職金を含めた運営費交付金の配分方針の抜本的な見直しを一気に進めるため」とされています。文科省はこの会議で,「2015年度末までに約1万人に年俸制の導入を目指す。実力主義の給与体系を加速させたい」とも説明しています。群馬大学は,同時期に選定されていた「トップ22大学研究支援構想」に漏れてしまったところでしたので,県の「がん治療技術地域活性化総合特区」指定とともに喜ばしいニュースであると同時に,問題点も多く含まれているといわざるを得ません。

重点配分4.1億の構想

この運営交付金は3年程度続くようですが,すでに,重粒子線もからむ次の戦略を要求されているようです。新聞には掲載されておりませんが,特に統合腫瘍学に関しては,アメリカのハーバード大学マサチューセッツ総合病院(MGH)およびスウェーデン・カロリンスカ研究所との間で医学物理,生物物理,放射線生物学,重粒子線治療,放射線診断,加速器物理,イオン線物理等の広い分野における包括的研究協力体制を整えるべく,フルタイム外国人研究者を招聘して,国内外の優秀な研究者を公募し,あちらの大学のブランチとして位置づけ,世界のトップを走るプログラムを実施することになっています。これにともなって,運営体制も大きく変わるようです。すなわち,この研究構想で実際に働く研究者には原則年俸制が導入され,学内トップ研究者としてさまざまな評価を受けるようです。

大きな問題点,部局の廃止と企画戦略会議の大きな権限

問題なのはここからです。この構想とセットで,大学の機構改革をいやおうなしに受け入れざるを得ない事態となっています。つまり,部局の廃止です。教員は新設される学術研究院に所属し各学部に出向という形をとり,その人事権は大学運営会議が持つことになります。教授会にはこれに反対する権限はありません。研究の推進の方向性や人的リソースの最適配置,教育研究組織のあり方は,新設される企画戦略会議(学長,副学長,学長特別補佐,事務長で構成)が決定することになります。このような大きな組織改革にも関わらず,われわれ教職員にはまだ何の説明もありません。

退職金の見直し・廃止? 50歳代の教職員をリストラして若手を採用?

さらに問題となるのは「人事給与システムの弾力化」という言葉です。この問題は大学の財政問題にも大きく関わっていますが,年俸制や人件費の配分に関して文科省があれこれ論じるのは当然かと思いますが,問題なのは,この論議が日本経済再生本部のなかの産業競争力会議(雇用・人材分科会)で行われていることです。大学改革・グローバル人材育成に関する論点として,先ほど示した「2015年度中に,国際競争力のある理工系・ライフ分野の全大学教員(定年制)を年俸制に移行する」という目標,「退職金を含む運営費交付金の配分方針を抜本的に見直し,1万人規模で年俸制・混合給与導入を目指す」ことがあげられています。議事録には「年俸制への移行に際しては,退職金の取り扱いが重要であるとも理解しているので,退職金の見直し・廃止も含めた具体的スキームを考える必要がある」「運営費交付金によって措置される人件費の相当額を占める50歳代以上の中高齢教員の給与システム改革が,優秀な若手・外国人材ポストの財源捻出の鍵を握ることになる」とまで記載されています。現在も50歳代教員は昇給は事実上ストップしています。つまり,昨年削減されたばかりの退職金に加え,年俸制と退職金の廃止がセットになっている,あるいは50歳代の教職員のリストラが論議になっていることを意味しています。しかも文科省はこの構想をはっきりと発表していないために,構想を押し付けられている各大学は,財政シュミレーションに困難をきたしている実態も明らかになっています。

大学評価は素人でもOK? 教授会は学長の邪魔をしているから不必要??

また,2016年度から確立することされている「新たな評価指標の策定に当たっては,地方自治体,産業界等ユーザ主体の策定体制をとるべきであり,その中でも,産業界のメンバーを主体とした策定体制をとるべきではないか」「人事給与システム改革に関しては,例えば,ユーザ視点の教員業績評価に関する改革,年俸制・混合給与導入目標数値とその達成度等を指標にウェイト評価した体系を構築してはどうか」「学長選挙等の際に慣行として行われている,根拠なき大学運営決定への関与排除について検討すべきではないか」「学長権限を阻害しない教授会,理事会の在り方について(…)も検討する」とあります。この方針がそのまま国立大学に適応されるかどうかは未確定ですが,文科省の意向を汲み取っている大学には,そのお駄賃として,すでに研究トップ22大学やスーパー・グローバル大学構想などの政策がどんどん実行されています。

文科省の問題意識や教育再生会議の問題意識が現実とずれている

産業競争力会議に参加している関係者は,学生の留学のみの論議に終始している文科省の方針にさすがに問題意識のずれを指摘しています。通常は企業に就職した後に,みずからのジョブキャリアのためにMBAを取りにいったりロースクールにいったりするもので,その人脈が会社の経営戦略に大きく影響するので,留学先の大学院大学も会社が選択していることが常態化しています。その中でグローバル人材あるいはスキルアップされた人材に育っていくのであって,文科省の構想にあるような,どこでもよいからとにかく学生を留学させようという発想には異論が出ています。一旦就職した人間のキャリアメイクの一環として留学があるのであって,大学教員や研究者も自分のキャリアや研究を積み上げる一環として留学がありますが,文科省には,この点がまったくわかっていないようです。

また,竹中平蔵氏も指摘しているように,アメリカの公立・私立の大学の多くは大学院大学であり,そもそも日本の大学と比較すること自体がまちがっています。その財政の多くを支えるのは,OBや投資家の膨大な寄付金と資金運用であり,学部長や理事はそのために非常に時間と労力を費やしています。名古屋大学高等教育研究センター客員教授であるダレル・ルイス氏(ミネソタ大学)やロバート・ケネラー東大先端研教授が,「大学自体の財務状況の抜本的な改善を放置して,文科省からの予算のみに財源を縛っていることには問題がありすぎる」と指摘していますが,これは非常に的を得ているように思えます。

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