II-74号 2016.3.7発行

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大学法人 病院問題の公開質問状に回答

附属病院の組織的問題認める

改革のために士気高める必要 27年人勧実施へ

群馬大学医学部附属病院

前回「ぐんだいタウン」号外(2016年2月12日)でお知らせしたように組合は附属病院問題に関する公開質問状を提出しましたが,これに対する回答を示すとして,大学法人群馬大学は2月24日に組合側と会見を行いました(平塚学長,田村病院長も参加しています)。この中で大学法人側は,今回の医療事故で明らかになった組織の問題や改革のポイントを明らかにするとともに,「頑張っている教職員に報いる」ために平成27年人事院勧告に準じた労働条件の引き上げを行う考えを示しました。

以下,公開質問状の項目(太字で示します)に沿って,会見の内容をお伝えします。

Ⅰ.これまでの経過と背景

(1)今回の事故について

① 学長・病院長が認識し,処置に当たっている,また事故調査委員会が対象としている「事故」とは,そもそも何を指すのか。②「事故」の経緯と背景について説明を求める。


大学法人: 2014年11月にマスコミ報道があったのは質問状の通り。2015年3月に旧事故調査委員会の結果の公表があり,そのときに聞き取りをちゃんとやってなかった等の問題が指摘され,もう一度調査をやり直すことになった。4月に改革委員会,5月に第三者委員会としての事故調査委員会を設置した。10月に改革委員会の「中間まとめ」として提言を受け,全学の立場で病院の改善事項の実態をチェックする病院コンプライアンス委員会を12月に開催した。2016年1月の末に社会保険医療の監査があり,今後3月末から4月に,医療事故調査委員会と改革委員会の最終的な報告・提言をいただく予定である。

旧調査委員会の方で,すでに腹腔鏡での8人の死亡事故についてカルテの記載不十分等の観点から医療事故であると考えて報告している。その後,開腹の方で10名死亡しているので,新しい事故調査委員会から事例毎に日本外科学会に調査を依頼している。さらに事故調査委員会から,単独で旧第二外科の死亡事例を調べただけでは客観性がないのでその他についても調べたいということで,トータルで51名について調査することになっている。

「事故」という言葉は,一般の方から考えると医療上の大きいミスがあって患者さんが亡くなったと考えるかもしれないが,いまの考え方では,治療する際に予測されたリスクや救命率よりも悪いことが起こった場合は事故と考える。明らかに医師の側の怠慢とかミスとかいう場合には「医療過誤」という。亡くなった方が本当に医療過誤で命を縮めたのかどうかというのはまだ分かっていない。院内で調査したときに問題になったのは,医師法で決まっている診療録に,経過や処置の根拠とか,どのようなことが疑われたのか,手術するならするでその根拠とか,そういうものを記載して,ご家族なりご本人に説明して納得ずくで行うのが今の医療だが,そこの記載が不足していたということ。カルテ上,これはこういうことでマズかったということが記録として確認できなかった。その意味では事故と考えている。そのときに,院内中心の調査ではどうしてもお手盛りになるという批判をいただいて,第三者委員会にお願いした。日本外科学会に依頼した調査の結果がまだ来ていないので,本当の意味で医療過誤だったかはまだ分からないが,非常に芳しくない事例であったとは反省している。

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(2)大学当局の対応について

改革委員会から指摘されている構造的要因の除去および再発防止体制の確立のためにこれまで大学当局が何をどのように進めてきたのか,今後何をする予定なのか,できるだけ具体的説明を求める。


大学法人: 腹腔鏡で8例,開腹手術で10例の死亡例があるというのは,それ自体が死亡率が高いのではないか,という疑いはある。次々と患者さんが亡くなっている状態なのに,それが抑えられなかった,あるいは抑えるような仕組みではなかった。あるいは,カルテがおかしいというのは後で分かったことだが,たまたま1例あったということではなくて,それが2桁の数ある。それを病院として,当時は全然認識できていなかった。病院のなかで質の悪い医療が繰り返されていたのを病院として認識できなかった。本来であれば本人がきっちり記録を残すべきだが,仮に本人が気づかなかったとしても,病院として反省を促すとか,そういうことが出来ていなかったのがおかしいという,厳しいご指摘をいただいた。

一番問題なのは,病院として一体的な運用ができたかということ。それぞれの科の独立性が非常に強くて,人のところは人の所だ,というところもなかったとはいえない。そういうところでお互いに干渉しないというところが,常識と外れたところがあっても訂正しないというか,そこがガバナンスということでは問題だった。

まずは診療体制を考えると,一番象徴的なのは外科の体制で,第一外科,第二外科が並列で,まったく独立で同じような手術をやっていた。患者さんの立場としては第一だろうと第二だろうと総力を結集してやってほしいと思うはずで,例えば医師が2人ずついても,2人で診るのと4人でチームで診るのとではクオリティが全然違う。そういう意味で,資源というか,力が散らばってしまっていた。言われていたのに問題を放置していたのが群大病院の非常にマズかったところ。二つの科がバラバラにやっているのはよろしくないということで,昨年4月1日に外科を統合し,いろんな手術のやり方や教育のやり方を,共通で話し合って協力してやっていくということに決めた。外の病院との関連もあるので100%とはいかないが,今は外科はまとまって頑張っている。内科も,とくに診療の共同化に関しては協力してやっている。

医療安全の仕組みについてもいくつか新しい仕組みを作った。例えば群大病院で亡くなって退院される患者さんは,難病の末にどうしてもこれは無理だったという方がほとんどだが,そういう中に事故性があるものを見逃してはいけないというわけで,亡くなった方は全員主治医でない者がチェックする,全症例見直しの仕組みを作った。そういうものをいくつか作った結果,上がっていなかった報告が増えたとか,倫理委員会に上がるものが増えたとか,いわゆる「ヒヤリ・ハット」の報告が増えたとか,数値的にも医療安全に対する取り組みが実を結んできていると考えている。

病院でそれぞれの診療に関してそれぞれの専門家がいるが,いい意味でうまく組織として働いていなっかたのは大学院の問題もある。大学院から病院に出向して治療していることが多いが,治療するところの流れと大学院の流れに大分ズレがあって,これもきちんと考えろという指摘を受けて,誰が見てもわかるように大学院の教育の主たる流れと外科のあり方を分かりやすく再編成することとしている。

医療事故に対しての検討は調査結果を待っている段階なのでわれわれの力ではどうしようもないが,それ以外のところの内部に関しては大分整理できていると思っている。

組合: 個人プレーのような部分も原因だと報道されているが,そこを集団指導体制にかえるということか。

大学法人: いわゆる科長,教授とセンター長は最終責任を負うが,ある程度の人数で必ずカンファレンスにかけるというチェック体制をとっている。

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Ⅱ.責任の所在と責任の果たし方

① 大学経営という観点からみたとき,医療事故を引き起こす組織運営をした経営責任についてはどのように考えているか。② 当時の責任者(元学長・元病院長以下責任者)に対して,どのような責任追及をするのか。


大学法人: 経営責任について当然あると思うが,調査委員会の最終報告がまだなので,全体像が見えていない。当然責任はあると考えているが,それについては役員会の方で考えさせていただきたい。

組合: 具体的に懲罰とか何か考えていることはあるか。

大学法人: 執刀医はもう辞めている。執刀医については今のところ,退職金を払っていないとか,処分を少し考えてはいるが,すでに辞めているので○○相当とか,そういう形になってしまう。診療科長も当然責任はあると思うがそれについては調査委員会の報告を待って今後考える,ということ。やはり全体像がつかめないと判断が難しい。

組合: 元病院長とか,その辺りについては何も考えていないのか。

大学法人: 元病院長は役員でもあって,役員の場合は規定がない。今後そういうものが必要だとは思うが,これについては今後役員会で議論していく。処罰の規定を作る方向で検討しているが,今すぐそれを作って適用することはできないので,それに準ずるなり,他の対応になると思う。

組合: 了解した。どこまで処分するかというのは外部に対しても非常に重要になると思うので,ぜひ厳正に対応していただきたい。

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Ⅲ.病院および大学全体での雇用・給与・手当のあり方

① 事故による財政難に関するできるかぎり具体的な見通しの開示を求める。② 病院全体が過重労働の傾向性にあったと推測されるが,学長・病院長はどのように認識しているのか。また,過重労働解消のための措置について,どのような取り組みを具体的に行うつもりか説明を求める。


組合: 群馬大学の今後の経営を考えた場合,地力をどうやってつけていくか,というときには単純に手当,給与,雇用条件の改善が必須であろう,というのがわれわれの立場である。①の,今後の見通しから回答を求める。

大学法人: 事故によるいろいろな波及効果があった。1月に監査があり保険医療の不適切な請求があったし,特定機能病院の指定取り消し,がん診療拠点病院の取り消し,臨床研究中核病院整備事業の取り消し,今年度の影響額は相当大きくなる。それにもかかわらず,病院などは特に,事故調査を糧にして改革をしていこう,ということで非常に頑張っていただいている,ということで何とかそれに報いたい,と考えている。

組合: シミュレーションはしていると思うが。最悪の状況になった場合はこうだとか。

大学法人: これくらいの額だということは計算している。経営状況はいま話した通り厳しいものにはなるが,片方では教職員のモチベーションを確保しなければいけない。みなさん一生懸命頑張っているので,過半数代表にはお知らせしているが,今回の人勧〔注: 俸給水準0.36%引上げ,ボーナス0.1月分の引上げ〕にはできる限りの対応をしていきたいということで準備を進めている。

組合: もちろん財政が苦しいのは何年も前からでわかっている。それと同時に,新しい業務がどんどん入ってきていて,業務のスリム化ということも考えていただきたい。教員の場合は研究時間が確保できればよい,という人は結構いると思う。これまでの業務にプラスアルファでなくて,なるべくスリム化していくということも,ぜひお願いしたい。次にAの,過重労働についてはどうか。どうやって改善していくかということも含めて回答を求める。

大学法人: 事故を受けて,本当に過重労働になっているかどうか,データを取って調べている。例えば医師の数,ベッドあたりの医師の数でいうと,群馬大学は全国5位で,平均値からいうと上の方にいる。たまたま第二外科は医師が少なかった。それなのに手術の数は多かった。とくに肝胆膵の領域。そこがたくさん手術をしたというのはわれわれとしては分からないところ。病院全体からいったらそんなに過重労働にはなっていないだろう,と考えている。

第二外科というのは病院の中で稼働額が多かったところ。そのこと自体は病院にとってありがたいことだが,安全性や質というものが犠牲になったのはマズかった。職員の数を見るとき,群大の場合は入院患者の数はそんなに多くないが外来が非常に多く,外来の患者さん1万人あたりでみるといろんな職員の数が国立大学病院の中では下の方になってしまう。だから,ある部分はそうでもないけれども,部署によってはメチャメチャ忙しい。そういう意味ではアンバランスがあったと思う。

組合: その点に関しては先ほどの縦割りというか,独立性が強いことも影響があったということか。

大学法人: それぞれ競っていたというとヘンだが,暗黙の了解で,安全とか質をちゃんとするというのは当たり前のことだとみんな思っていた。ふたを開けてみたら現場の医師は,それよりもたくさんこなして誉められたいという感じがあったかもしれない。経営陣と教授と現場の医師とに微妙にズレがあって,そういう意味ではコミュニケーションが不足していたと思う。

組合: 実際に診療している立場からはトップダウン的なものが薄いと思っていた。上の立場から適正な人員配置とか業務量も調節してもらうことで,職員としては働きやすい環境になると思う。やっぱり縦割りっていうことで,なかなか他の部署のことは言えないっていうのはある。その辺は病院長の方から,院内の説明会ではどんどん言ってくださいという風にやってもらい,その辺がもっと普通になれば職員としてもやりやすい環境になると思う。

大学法人: それが風土改革ということ。風通しよくするようにと言われてもいる。 組合: 実際思っているけど言わないスタッフはたくさんいると思う。一人一人のポテンシャルは持っているので,それが活かされる病院作りをしてもらえると,待遇面も,他部署との関係もよくなると,稼働率とか病院の評判にもつながっていくと思う。

大学法人: 指摘の通りだと思う。院内でみるとあそこの科の事故となるが,やっぱり外からみると大学全体の事故と受けとめられる。やっぱりある程度お互いに意見を言えないとマズいと思う。


組合: 最後に教職員に対してメッセージがあれば。

大学法人: 学長は教授会を回っており,若手の教員との懇談会でもお伝えしているところだが,最終的な報告が上がった時点で,またメッセージを届けたいと思っている。今回指摘のあった通り,風通しのよい病院を目指したいと思う。トップダウンが必要な場面もあるが,決めるときに現場の意見が一番大事なので,双方向の話し合い,コミュニケーションをきっちりとっていきたいと思う。

組合: 病院の先生方の評価のあり方として,難しい手術をたくさんできることが高く評価されることが今回のような事故につながった部分はあると思うので,普段の,カンファレンスを適切にしているかとか,平素の形でなかなか現れにくいところも先生方の評価に取り込むべきだと思うので,検討いただきたい。

また,以前に臓器別に病院を分けていたときには,結局机上で終わっていた。今回この改革では,確実にそこは変わっていけるのか。

大学法人: 外との関係で100%できていない部分があるが,それ以外の,中でできるところは全部やっている。カンファレンスは一緒にやっている。

組合: カンファレンスも数だけこなして,言うだけ言って終わりということもあると思う。そうやって数を増やしていくと業務に支障を来していくことこともありうるのではないか。時間の配分の取り方,人によってはカンファレンスのために朝早くきて,カンファレンスをこなして,その後始業,なんて科もあると思う。そういうところの是正もしていってほしい。

大学法人: この一年間はみなさんのご苦労で成り立っていると思うが,いろんなシステムを,同じような委員会は統合して,皆さんの負担を減らすというのが今後の仕事と思っている。


***

公開質問状にも書いた通り,私たち教職員は一丸となってこの事故について真摯に反省するとともに,社会的信頼を回復すべく努めなければなりません。大学内部,病院内部の風通しをよくし,コミュニケーションを十分とることの重要性が,今回の会見で指摘されました。

経営陣と現場をつなぐ組合が果たす役割も大きいと思われます。われわれ群馬大学教職員組合もそのために貢献していきたいと思います。みなさまの声を今後も組合にお寄せください。

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